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那 由 多 の 雫   6






 仮眠室へと向かおうかとも思ったが、結局面倒でそのままソファへと彼を押し倒す。そのまま唇を重ねると、存外素直にエドワードが唇を開き、ロイの舌を受け入れた。
「……ん、……っ……」
 いつも通り、思うままに彼の口腔を蹂躙する。最初は何も知らなかった彼だが、良くも悪くも聡い彼はすぐに行為も覚えた。少しばかりたどたどしくはあるが、自らも舌を絡めてくる。
「ん、……ンんっ……」
 その傍ら、彼の衣服へと手をかけするすると解いていき、直接肌に触れた。最初は脇腹。それから臍。胸元。鎖骨。
 彼の敏感な部分を特に重点的に撫で上げると、それだけで彼はびくりと震えた。相変わらず、ひどく感度の良い体をしているな、と思う。
 唇を離すと、今度は舌で今まで指で触れていた箇所を愛撫する。
「……っふ、……ぁん…」
 自分以外に誰も聞く人間などいないというのに、声が漏れるのが嫌なのだろう。エドワードは漏らすまいと必死で声を殺している。
「……っ、ひ、ぁ……っ……」
 だが、彼の分身へと触れるとそれすらもかなわない。息を飲み、それから甘い吐息を吐いた。
 彼をソファに座らせたままの状態でロイは跪き、久しぶりだし、一度先に開放してやろうと指ものばし扱く傍らで、ちろちろと先端へと舌を伸ばす。
「それ、……ゃ、……やめ……っ」
 刺激が強すぎたのか、彼らしくもなく、涙を含んだ声音になっている。それがひどく淫猥だと思った。
「馬鹿、……も、……ゃ、……っ……」 
 力の入らない手でロイの手と舌を除けようとするが、それは全く意味が成さなかった。それどころか、もっと、もっとと強請られているような気すらしてくる。
「あ、……んぁっ、―――っ……!」
 ちゅ、と軽く吸ってやった途端、耐えきれなかったのだろう。彼が吐精した。その白い液体を彼に見えるように口に含み、嚥下するとエドワードは狼狽する。
「ばばばば、馬鹿っ、何飲んでんだよ馬鹿っ!」
「酷いな」
「馬鹿に馬鹿って言って何が悪いんだよ馬鹿大佐っ!」
 どうやら余程羞恥心を刺激されたらしい。真っ赤になって狼狽している。そう言えば、今まで飲んでやったことはなかった。
「君も何度か、飲んでいるだろうに」
 彼を促し、口での奉仕をさせたことは何度もある。そうして、飲ませたことも。そのたびに苦い、不味いと文句は言うものの、とにかく彼も反対の立場にはなったことがあるわけで、そこまで狼狽する理由がわからない。
「やるのとされるのじゃ違うんだから当たり前だろっ!」
 つまり、やる方がまだマシ、という事らしい。その基準が良く分からないが、回数を重ねていけばおいおい分かるだろう。
 尚も文句を言い続けるエドワードを無視して、やや強引に彼の足を大きく広げさせた。
「ちょっ…」
 慌ててエドワードは足を閉じようとするが、無論赦さない。両手で両足を封じたまま、彼の秘所へと舌を伸ばした。
 まだ硬い内側へと、ぬるりと舌が侵入する。
「や、……それ、………や、…ャだ、……なぁ、……っ」
 甘い声音で、彼は嫌だと言い続ける。嫌だ。止めろ、と。けれど、その声で告げられてどうして止めることができるだろうか。いかにも感じきった、その声音を聞いているというのに。
 ちゅくちゅくと、しばらく彼の内側を慣らすように動かしていたが、頃合いを見計らって舌から指へと変えた。入り口はすでに舌でぬめっているから、すんなりと飲み込む。
「ん、―――っ、ん、ぁ、……っ」
 そのままずぶずぶと埋め込むと、今度は指の長さを覚え込ませた。最初は苦しげだったが、やがて彼の内部も柔らかく指を受け入れる始める。熱く、狭いのに柔らかい。その、誘い込むような感触。
 指も抜き、今度はロイ自身をエドワードの入り口へとあてがうと、一気に身を進めた。
「ひぁっ、……―――っ、あ、あ、……っぁ、ン……っ」
 苦痛と快楽の入り混じった声音と、内部の収縮。受け入れまいと拒否しているのか、それとも。
 だが、そのうちロイも何も考えられなくなっていく。彼の与える感触に夢中になり、我を忘れて侵略を繰り返す。
「や、……ぁ、―――んっ……」
 そろそろロイの限界が近づいたことを察したのだろう。やがて、慌てた様子でエドワードが言う。
「中、出すな、……っ……、あ、―――っ」
 けれど彼の懇願を聞くことなく、躊躇わずエドワードの最も深い場所で奔流を迸らせた。
「や、……っ、あ、ぁ、……っ」
 どくどくと流され込むたび、彼の金色の瞳は潤んでいく。その様が見たくて、どんなに彼が懇願しても叶えてやったことはなかった。
 内側を精液で汚される感覚が嫌なのだろう、とわかっていても、一方でだからこそ彼は感じるのだと知っている。
 その証拠に、ほぼ時を同じくして彼も自身を開放していた。
 くたりと力が抜け、放心する。つう、と潤んだ瞳から一筋、雫が流れた。感情的ではなく、生理的な涙だ。
「……ん、……っ……」
 ゆっくりと彼の身体から出ていくと、エドワードは身体を震わせる。それから、息を整えようと浅く深呼吸を繰り返した。
「大丈夫かい?」
 尋ねると、落ち着いたのだろう。ぎろりとこちらを睨みながら言った。
「終わった後に聞くなら、その前にもっと気を遣えよ。大丈夫な訳ねぇだろ」
 それは確かに彼の意見が正しい。彼は何度も止めろと言ったが、止めなかったのは自分だ。ひたすらに彼を無視し、貪った。
「もっともな意見だな」
 だから、肩を竦めて肯定するしかない。確かにその状態で大丈夫かと言われても、白々しいだけだろう。
「ったく……」
 ぶつぶうと文句を言いながらエドワードは立ち上がる。それはいかにも億劫そうで、相当怠そうだった。けれど、残念ながら罪悪感は沸かない。
 やはり自分は最低な人間らしい、とつくづく思った。
 彼を思う様貪ったことに満足こそするが、後悔などできるはずがない。
「この部屋からシャワールームまで遠いってのに…」
「誰もいないから安心したまえ」
 あまり救いにならないことを言うと、案の定睨まれた。よろよろと歩き出す彼は、ひどく危なっかしい。
「……鋼の」
「何だよ」
 不機嫌そうな返事に、自然と頬が緩んだ。
 彼は変わらない。その事実が、こんなにも嬉しい。
「礼を、言わなくてはな」
「…な、なんだよ急にっ。いらねぇよ、礼なんて。言われる覚えもねぇ」
「そうかい?」
 彼は自分という人間を肯定した。たったそれだけのその行為は、ロイにとって確かな救済だった。
 無論、それは肯定をしたのが彼だからだ。自分がもっとも求める存在だからこそ、それは意味がある。
「そうだよ。あんたなんかに礼を言われても、気味悪いだけだ」
 あまりと言えばあまりな言いようだが、それは嘘偽りのないエドワードの本音なのだろう。
「んじゃ、オレはシャワー浴びるけど、邪魔すんなよ?」
 念を押されて苦笑する。さすがに、これ以上彼に触れたら彼を壊してしまうまで、今日は止められないような気がした。それならば、今日はもう、触れない方が良い。
 やがて、ぱたん、と静かに音がして彼は出ていった。そうなれば、この部屋はもう自分しか存在しない。
 深い意味もなく、目を閉じた。
 それだけで、今も鮮やかにかつての地獄が蘇る。

 ――――――人殺し。

 そう、自分は人殺しだ。永遠に。
 それでも、自分は生きる。ひたすらに。

 そうして。

 ――――――そうして、彼もまた生きるのだろう。

 生きる理由は違う。目的も違う。けれど、自分たちは確かに何かが重なっている。
 そして、彼は自分を見つめるだろう。見つめ、射抜く。
 赦されたいわけではない。忘れたいわけでもない。安寧など、望まない。
 ただ、彼がいれば良い。
 もう、自分は彼を失えない。絶対に。何をしても、彼を引き留め、手に入れる。
 それは決意。何よりも何よりも強い意志の力。
 ―――彼さえ、いてくれるのなら。
 そうしたら、自分はおそらく狂わずに生きていける。この罪を背負ったまま。咎という名の、業火に身を焼かれながらも。
 それとも、自分はすでに狂っているのだろうか。彼に恋する故に。
その判断をつけられないまま、ロイは静かに微笑む。
 ―――どちらでも良い。彼がいてくれるのなら、それが全てだ。その為なら、自分は何でもするだろう。

 幾千の躯。

 幾万の焔。



 那由多の煉獄に落とされた、―――たった一滴の、それは奇跡だった。



END