夢寐の楽園
※R18
9
再び、唇が重なった。まだ、震えは止まらない。
未だに、きっと自分は怖いのだろう。だから怯えている。
いつの間にか自分は、随分と臆病になってしまった。
だが、そんなエドワードの怯えをものともせずにロイはエドワードの口腔を思うさま舐った。
「――っ、ん、……」
角度を変えながら、キスを何度もする。その間に、彼の手がエドワードのベストへと再度伸びる。
二つめのボタンが外れた。
「……っ、ち、ちょっと待て……っ!」
慌てて唇を離し、彼の手を止める。すでに、ロイの手は三つ目のボタンに伸びていた。
「あんた、このまま先に進む気かよ……?」
「当然だろう?」
ロイの口調は、何を今更、とでも言いたげだった。
「我慢とか忍耐って言葉を知らねぇのか、あんたはっ!」
「知らないな」
即答だった。目の前が暗くなったかのような錯覚を思わず覚える。
「……いくら何でも、急すぎるだろ。知り合って、まだ間もない」
エドワードとしては正論を告げたつもりだったが、何の感慨もロイは示さなかった。
「時間で人間は恋する訳じゃない」
「……いや、それはそーかもしれねぇけど」
(でも、だけど、やっぱ)
エドワード本人としては、今日はキスで終わり、で良いような気がする。そんなに急いで身体を繋げなくても、もっとゆっくりと、互いを知ってからでも遅くはないはずだ、と。
少なくとも、初めて唇を重ねる日と身体を重ねる日が一致する、というのはどうにも性急すぎはしないだろうか。
「遅かれ早かれ来る日だ。それが今だとしても、何の問題もないよ」
しかしやはり、ロイに止める気はないようだ。本人の中で盛り上がってしまうと、急に止めろと言われても、それは確かに酷というものだろう。自分も男で、わからない感覚ではなかったから、尚更困った。
「あんた、良い年してそんながっついてみっともねぇ、とかは」
「思わないな。年齢は関係ないだろう。若い頃だって、こんなに相手を今すぐ欲しいと切羽詰まるほど求めたことはなかった」
熱烈な告白。思わず顔が赤くなった。彼の手を止めていた指の力が弱まり、その隙に彼が三つ目のボタンを外す。
「今すぐ、欲しいんだ。良いだろう?」
否、の答えを要しない問い。もう、どうにでもなれ、と思った。その傲慢さすら、愛しいと思ったらもう終わりだ。
その後は、あっという間にシャツのボタンも全て外され、脱がされる。無論、脱がされたのは上部だけではなく、ズボンも下着も、同じく即座に取り払われた。
「本当に変わった義手と義足だな」
しみじみと言われ、苦笑した。
初めて見る人間にとっては、――ただし、ロイは夢の中ですでにそれを見ているが――さぞかし異様な代物だろう。気味が悪いと思っても無理はない。
「オレにとっては、大事な手足だ。けど、もしやる気が削がれたなら、……っ」
最後まで言うことは許されなかった。肩の付け根、機械鎧との繋ぎ目を彼が舌で舐める。
「悪くない」
低く、甘い声でロイは言った。そうして、同じように脚も繋ぎ目へと舌を這わせる。
「……っ、……ぁ」
ゆっくりと、時間をかけて丁寧に彼は全ての繋ぎ目を舐る。愛おしむように、労るように。
「も、やめ……っ」
鋭い快楽とはほど遠い、その感触。焦れて、思わず声を上げた。
願いは叶えられ、機械鎧の繋ぎ目への愛撫は止んだ。その代わり、今度は首筋から胸元へとロイの関心は移ったようだ。舌を伸ばし、指の腹でさすり、撫で上げる。勝手に息が上がった。
「……っ、ん、……」
何しろ、他人と肌を重ねるのは随分と久々だったから身体に余裕がない。自分を慰めることも、ほとんどなかったから尚更だ。何をされても、どうしようもないほど感じた。それがひどく恥ずかしくていたたまれない。
こり、と硬くなった胸の突起を確認するように男の舌が執拗に舐る。もう片方の突起は指の腹や爪で弄られた。
「あぁ、随分と赤くなってしまったな」
やがて唇と手を離し、どこか感心したかのようにロイが呟く。
「あんたのせいだろ……っ」
思わず怒鳴ったが、声は半分泣き声を帯びていた。
「そうだな。私のせいだ。……嬉しいよ」
耳元で囁かれ、ぞくりと何かが背中を駆け上った。胸を弄ることには飽きたのか、今度は彼の指がエドワードの臀部へと伸びる。肉付きを確かめるように撫でたかと思うと、奥まった窪みを探し、指を押し入れた。
「……っ」
閉じたその部分は、指の一本すら容易には受け付けない。そのことに、すぐにロイも気付いた様子だ。
「狭いな。柔らかくしないと君の中に入れそうにない」
「そーいうこと、言うなよ……っ!」
確かに彼の言うとおりではあるが、なにも一々言葉にしなくても良いだろう、とエドワードは思う。デリカシーがないのか、単に素直なのか。微妙なところだった。
不意に、臀部の両脇を掴まれたかと思うと強引に身体の向きを変えさせられた。するとそれまでベッドに仰向けになる形だったエドワードの身体は俯せの状態へと変わる。
それは覚えのある姿態で、慌てて彼の手から逃れようとしたがもう遅い。
臀部だけを高い位置に抱え、探り当てたその場所へと彼の舌が伸びた。ぬる、と濡れた感触が触れる。
「ひぁ……っ、ゃ、だ……っ!」
抗議の声は綺麗に無視された。狭い入り口をこじ開けるようにして舌が侵入していく。指を拒んだその場所は、ぬるつく舌までは拒めなかった。舌先を尖らせるようにして侵入し内側から溶かしていく。
「……ゃ、それ、――ャ、だ……っ」
その感覚には、昔からどうしようもなく弱かった。身体の内側だけではなく、全てが蕩かされるような気がしてくる。
「ぁ、あ、……ン、ぁ……っ、……」
両足が震えた。自分で自分を支えきれない。ロイは舌で丹念に入り口を溶かしながら、己の両腕をエドワードの太腿の根本へと置いてそのポーズを固定させる。
「――っは、……あぁ、……ぅ、ン……っ」
ロイの腕はエドワードを支えたが、指はそうではなかった。エドワードの中心部分、雄の象徴を彼の長い指が弄ぶ。丹念に、じっくりと。形を確かめるように触れたかと思うと、弱い部分にばかり愛撫を寄越された。
「も、ぅ、――離、……離せ、……っ!」
声は自然に切実なそれになった。限界は目の前だと嫌でも分かる。
それなのに、ロイの悪戯な指は相変わらずだったし、無論したも同じだった。
「や、……あぁ、あ、――っ」
やがて、エドワードは限界を迎えた。当然、ロイの両手は白い液体で汚れたが、彼は気にする様子もない。舌が抜かれ、微かに安堵する。顔は見えなかったが、ロイが笑ったのが分かった。
腰には完全に力が入らない。ロイが腕で支えることを止めると、エドワードは完全に俯せになった。けれどそれは一瞬で、再び先ほどと同じように臀部だけを掲げるような姿勢を取らされる。
次に感じたのは、舌のぬるつく感触ではなく、長く太い大人の指が押し入るそれだった。
「あ、ぁ、……っ」
舌である程度慣らされた後だったし、彼の指も濡れていたから、今度は指も先ほどより余程滑らかに侵入を果たした。
内部を確かめるように指が蠢く。引き抜かれ、指を増やされる。淫猥な、水を含んだ音がその部分から聞こえた。
「ゃ、……、ん、ぁ――っ」
その愛撫は暫く続いた。慣らすためだと知っていたが、久々すぎるその感覚に身体がついていかない。
自分に与えられているのが快楽なのか、苦痛なのかもわからなくなりそうだった。
気が遠くなるようなその愛撫は、不意に止んだ。指を引き抜かれ、息を吐く。けれどそれで終わりではないことも知っていた。
散々弄られ、熱を持った部分にぴたり、と彼の熱が押し当てられる。できるかぎり力を抜いた。後ろからの挿入だから、ロイの表情は分からない。だが、自分も恥ずかしくて顔を見られたくないからそれで良かった。
「ひ、ァ、――ぁ、あ……っ、ン」
圧倒的な灼熱が、エドワードの内部へと入り込んでくる。熱くて苦しい。けれどそれだけではなかった。
「あ、あ、ぁ、…んぁっ、――っ」
視界が勝手に滲む。声を抑えたいと思うのに押さえられない。その響きは苦痛以外の何かが明らかに混じっていた。
「――ふ、ぁ……っ」
苦痛よりも快楽が微かに勝った頃を見計らったかのように、不意にロイがエドワードの身体から出て行く。その感覚を惜しんで、身体が勝手に彼を離すまいと締め付けたのが自分でも分かった。
恥じる間もなく、ロイがエドワードの身体の向きをまた強引に変えた。何があったのか理解する前に、右足を掴まれ大きく脚を開かされる。そのまま、今度は真正面から彼がエドワードを浸蝕した。
「……っ、ひ、……ッ、ンん……っ」
挿入は容易だったが、息苦しさは先ほどより勝った。顔を見られたくなくて、両腕で顔を隠そうとする。だが、それは叶えられずロイに阻止された。
「や、だ、――見ん、な……っ!」
恥ずかしかった。とにかく、恥ずかしかった。大きく脚を開き、彼を受け入れていることも、それを身体が悦んでいることも。その快楽を知っていることも。誘い込むように、腰が動きそうになることも。全て。
「断る」
にべなく答え、ロイはそのまま動いた。その動きは快楽しか呼ばず、熱だけが身体を支配する。
「ひぅ……っ、ぁ、あ、――っ」
内部を限界まで荒らされ、擦られた。たまらなく良かった。
「や、……も、……もぅ、――おかしく、……っ、な、る……っ」
「なればいい」
囁かれた後に、乱暴なキスをされた。舌が絡む。彼の息づかいもいつの間にか随分荒くなっていた。
一際深い場所を突かれ、息が止まる。彼の熱をその場所で受け止めたくて、無意識に彼を締め付けた。
「……っ」
眼の眩むような、その快楽にエドワードは溺れ、果てる。ロイが自分の中で爆ぜるその感覚を甘受した。
それは悦楽としか呼べない、至上の瞬間だった。
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