「あんたの、側にいたいんだ」
 真摯な表情と、本気としか思えない声音。呆然と。ただ、呆然と彼を見つめた。
「それだけなんだ。それ以上は、どうしたいとか、なくて。ただ、そう思う。軍人になるのがどういうことかも、わかってる。けど、そう思うんだ。だから決めた」
 そして彼は続ける。考えて、迷った。けれど、もう答えは出たのだ、と。
「それは何故、と聞いても?」
 何故、自分の側に。
「それを、オレに言わせんのかよ」
 その問いに、途端エドワードは不機嫌そうに口元をへし曲げた。けれど、何故、と。どうしても問いたい答えが聞きたいと思った。
 もしかして。まさか。けれど。
「是非、聞きたいね。聞かせてくれないか」
「その顔、もうわかってんだろ」
 その口調は少し幼く、まるで拗ねているかのようだ。それが可愛い、と言ったら彼は怒るだろうか。怒るのだろう、きっと。
「一応、予測はできたが、信じられなくてね。だから是非、君の口から聞きたいんだ」
 だから教えて欲しいと告げると、ぷい、と彼は横を向く。
「言わない」
 そう告げる彼の頬が、耳が赤く見えるのは目の錯覚だろうか。夜の闇が、そんな自分にとって都合の良い幻覚を見せるのだろうか。
 否、そうではないはずだ。これは幻でも、夢でもなく。
 それでも、心の片隅で、その予想は本当だろうかと思う自分がいる。こんなにも不安な気分になるのは随分と久しぶりのことだった。自分に、そんな感情がまだあったのかと思うほどだ。
 その可能性を、今まで欠片も考えたことはなかった。一言で言えば、ありえないと思っていた。
 けれどそう断言する根拠などどこにもない。自分の存意ばかりを気にして、彼のことを見ていた癖に、その実、何もわかっていなかったのかも知れない。
「どうしても?」
「どうしても。言わないって言うか、言えないって言うか、わかれよ、そんなん。気恥ずかしいだろ!」
 顔を真っ赤に染めて怒鳴られても、愛しいばかり。抱きしめたくなるばかり。
 その衝動をとりあえず耐えつつ、確信する。きっと、自分の予想は当たっている。そう、きっと。絶対に。
(成る程。だからか)
 だから、昨日彼は自分と視線が重なった瞬間、困ったような表情を浮かべたのだろう。どんな表情をしていいのか、きっと彼はわからなかったに違いない。
 今のように顔を赤らめ、照れを見え隠れした表情を浮かべてくれれば、自分ももう少し早く、彼の感情に気付くことができただろうに。
 そう思ったが、今の今まで何一つ気付かなかった以上、それは仮定でしかなかった。そして今は仮定よりも重要な問題を前にしている。
「鋼の。私も秘密を一つ、披露しようか」
「秘密?」
 その言葉に反応し、エドワードは背けた顔を戻し、首をかしげた。顔色が、僅かずつ平常のそれに戻っていく。
「なんだよ、秘密って」
「君にも、誰にも秘密にしていたことがあるんだ。一生、秘密にするつもりだった」
 言えるはずがなかった。彼に恋した、などと。言うつもりも、なかった。
 ――――――――五年前。
 この恋の全てはあの日、彼と出会ったあの日から始まった。
 今まで、いろいろなことがあった。おそらく、これからもいろいろなことがあるだろう。彼も、自分も。
「今日は記念日になるかも知れないな」
 くすりとロイが笑うと、エドワードは更に大きく首をかしげる。
「秘密と記念日って、何の関係があんだよ?」
「大いに関係あるとも」 
 現時点では、それは未然形でしかない。けれど、それはきっと間もなく現実になるだろう。そう、きっと。
 そうなる為に、自分はその秘密を彼に告げよう。今、告げなければ、自分は確実に必ず後悔するに違いない。
 その秘密を。気持ちを、秘める決意は粉砕し、瓦解していた。
「君に言わねばならない、……言いたいことがあるんだ」
「何をだよ?」
 きょとんとした表情は、実年齢以上に幼く見える。ロイが何を言う気なのか、まるで想像がつかないらしい。
「できれば頷いて欲しいんだが」
「だから、何が?」
 告げたら、きっと彼は赤面するだろう。それから、どうするだろうか。笑うだろうか。怒るだろうか。それとも。
 考えながら、ロイはエドワードの手を取り、甲に口づける。まるで、何かの許しを得るように。
「な、……何っ、なにして……!」
 手をふりほどくこともないまま、大仰にエドワードは驚き、慌てている。
 今日は記念日になるだろうか。なれば良い。
 きっと、なるはずだ。
 そう思いながら、秘めるはずだった言葉を口にするため、殊更ゆっくりと口を開いた。


END


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