正統?異端?スガワラ的スジ彫り万能論
スジ彫り万能論・応用編その3


(4)筆塗りにもスジ彫り


前回までは「マスキング→エアーブラシ」が前提のお話でしたが、スジ彫りの効能はなにもマスキングだけとは限りません。


これを見て下さい。レイとアスカの手のひら。
こういう部分の塗り分け、どう思います?イヤですよね〜!ものすご〜くめんどくさいです。1/8で、しかも指の間隔が狭くまともにマスキングテープは貼り付きませんから、必然的に筆塗りで、ということになります。が・・・それにしたってシンドイです。白に紺・赤に紺なのでミスできないし。修正もえらく困難だし。

で、私がどうしたかと言うと・・・スジ彫りしました。この部分には(ほとんどつぶれかけてましたが)元からモールドがあったので平らに表面処理し、エッチングノコ&ケガキ針でちまちま塗り分け境界をスジ彫り。
その下準備の後、紺のタミヤエナメルでスミ流し。指の先端部あたりに塗料を置いてやれば、す〜っと指の股まで難なく流れていきます。こうやって輪郭をきちっと決めてから、内側を塗りつぶすように筆塗りしました。
要は塗り絵と同じです。一番大変なのは境界を決めることで、それさえ決まっていれば、あとは塗りつぶせば良いだけなので楽勝。ものの5分もあれば塗り終わります。

もちろん「塗りは楽かもしれないけど、スジ彫りするんだから苦労の量は同じじゃないかヨ!」という意見もあると思います。確かにその通り。「下地で楽して、塗りで苦労する」か、それとも「下地で苦労して、塗りで楽する」かの二者択一。んで、私は「必ず」後者を選択します。
前にも書きましたが、塗りの出来映えは完成度に直結します。塗りの段階で何度も修正を繰り返し、パーツをベタベタ触っていては絶対に美しい仕上がりになりません。「パーツに触る回数」「塗装の手間数」は出来る限り減らすべき。逆に言えば塗装の手間数を減らす為に、いくらでも失敗と修正が効く下地段階で勝負を決めてしまうべき。つまり準備は入念にってことです。そういう意味で私は「スジ彫り」をやってます。


こことか、こことか(矢印部分)も上と同様の手順を踏んでます。下地段階でシャープなスジ彫りを入れ、スミ入れをし、内側を筆塗りで塗りつぶす、と。かな〜り楽ですよ。お試しあれ。


(5)二重彫り

上とダブるのですが、一応別扱いで。


こういう部分、一見するとなんてことないかもですが、わたし的には実は厄介な部分だったりします。溝が中途半端に太いんですね。こんな感じの「太い溝」をどのように処理するか。実は私は(4)と全く同じく「面」として扱っています。
これが断面図です。こんな風に、溝の両サイド・塗り分け境界に縦に彫りを入れます。彫りの幅は0.1mm、中央の島になってるところ(赤矢印)は0.5mmないくらいでしょうか。この彫りにスミ入れし、その後島部分を筆で黒く塗りつぶしてます。実はけっこう手間かけてます。

こういう処理をわざわざやっている一番の理由は、「溝の底だけ塗りたい」から。この方法だと溝の壁部分(青矢印)には黒が乗りませんから、面情報が増えるんです。写真を見てもらえば、わかる人にはわかると思います。「情報が増える」というのを「別パーツ感」「多層構造」と言い換えても良いと思います。

この技術を使うと、下のようなのも出来ます。


この部分、竜人氏の凄いところですが、お腹のふくらみに添ってラインの太さが加減されてます。フィニッシャーとしては、こういう部分は絶対に活かしてやりたいところ。この「ゆるくカーブしつつ、太さが微妙に変わる溝」を美しく且つくシャープに決めるには、上記の二重彫りが役立ちます。この溝の中に0.1mmの彫りが2本入ってます。ゆるやかなカーブはそのままに、ぴしっと決まって見えるでしょ?実際にやるかどうかは別として、こういう技法もありますよ、ってことで。


さて、「スガワラ的スジ彫り万能論」一応これでおしまい。かなり上級者向けの内容で、初心者の方々は置いてきぼりにした気もしますが・・・質問等あれば何でもお聞き下さい。

まとまらないまま書きなぐりましたが、全編通して言いたかったのは「作品の出来は塗装で決まる。だけど、塗装の出来は下準備で決まる」ってことです、要するに。マスキングにめっさ苦労してる割に塗り分けが上手く決まらない人、もしかすると、その原因は下地処理の段階にあるのかもしれませんよ?いちど全体の工程を通して、見直してみるのも良いかもです。