暗闇
罠―わな―
―――――――――――――――――――――――――――――――
「っ…やっ…嫌、いや…だ!」
その声は、
微かな響きを残して、暗い闇の中に消えて行った。
「どうして?君はこれを望んでいたんだろう?」
その声に被さるかの様に発せられた言葉もまた、
暗闇に消えていく。
「違っ…こんな事望んでなんか…」
「そうかい?僕にはそうは思えないけどな」
可笑しそうに喉の奥で笑いながら、
皮肉な響きを帯びた声色で囁き、
怯えているであろう相手への距離を詰める。
「くっくっ…そんな顔も出来るんだ
実にイイね、普段が普段だからかな、すごく…そそられるよ」
そう云って、酷くゆっくりと近づいて来る影。
始めから、逃げる場所など無いと解かっていても、
逃げ場を求めて身体が後退る。
こんな感情は初めてだった。
どんな敵と対峙した時も、どんな困難やピンチに遭遇した時も、
こんな想いを抱いた事なんてなかった。
ただ…目の前に居る、少なからず見馴れているハズの相手が
こんなにも『恐い』と思った事なんて…
「どうしたんだい?君は納得して来たはずだろう」
「それは…それはでも…」
「“こんなハズじゃ無かった”かい?
確かにそうだろうね、でも君はここまで来てしまったんだ。
そうだろう?
もう後戻りなんて出来ないんだよ…鳴滝くん」
ゆっくりと発せられる自分の名前を聞いた時、
『逃げられない』という実感が、身体を突く。
それは、『絶望』にも似た感情を伴なって、心の中を侵蝕していく。
(違う、違う、こんな…こんな…)
掴まれた手、
回されてきた腕、
無造作に触れてきた指、
乱された服、
その相手の全ての行動から感じられたモノ。
それが、
何を意味するものなのかは解かっていた。
でも…
それが、どんな意志を持ってのものなのかが解からなかった。
『逃げなければ』
そんな衝動的な意識に突き動かされて、その腕の中から逃げ出した。
逃げる場所など無かったのに…
身体が震えているのが自分でも解かる。
相手が自分に何をしようとしているのか、
この先、自分の身に何が起きようとしているのか、
その全てに対して、
相手の明確な意図が解からない事が、何よりも恐かった。
「どうするんだい鳴滝くん、もう、後が無いようだけど」
そう云いながら近づいて来る相手の声は、
実に楽しそうで…それが益々『恐怖心』を煽る。
前をはだけさせられたシャツを合わせる様に握り締め、
露出した肌を隠しながら、追い詰められた背中には既に壁が在って…
「ル・ブレッド…」
「ダメだな、君がそんな縋る様な瞳をしては。
そんな瞳を見せられたら、もっと見たくなってくるじゃないか、
少しは…優しくして上げようと思っているのに」
外された仮面。
普段進んで見せられる事のない素顔。
その…素顔にうつされた、今まで見せた事のない表情。
いっそ、何時ものポーカーフェイスでいてくれたの方が、
どれだけ救われたか知れない。
もう、何処にも逃げる所は無かった。
壁際に追い込まれ、スグ目の前には自分より大きな影が迫っていて、
伸ばされる手、
触れてくる、長くて、形の良い…細い指先。
指が頬に触れた瞬間、身体が竦み上がる。
自分が、どれだけ怯えた顔をしているのか、
その反応が、相手の気をどれだけ引いているのか、
解かっているのに、どうする事も出来ない。
「…可愛いね、
そうやって、何時もは決して見せない様な表情を見せられると、
改めてそう思ってしまうよ」
そう云って、頬に触れた指を軽く滑らせながら、
もう片方の腕で完全に行くてを遮り、
壁際から一歩も動けなくしていた。
「大人しくしていれば、それ程酷い事にはならないと思うけど、
それに、約束を守ると云ったのは君だろう」
「でも、これは…っ」
言葉が掠れて震える。
こんなにも、ル・ブレッドが『恐い』と思った事なんて無かった。
与えられる行為が、
こんなにも、自分の中の『不安』を引き出すなんて思わなかった。
『解からない』事が、こんなにも自分を追い詰めるなんて…
涙が…出てしまいそうになる…
「ル・ブ…ッ…」
一瞬、影が大きくなったかと思うと、
次の瞬間、識別出来ない程近くにル・ブレッドの顔があった。
そして、唇に触れる感触。
何が起こったのか解からないまま、
唇に触れる感触が少し強くなって、そして離れた。
「その様子だと、キスも初めてかい?鳴滝くん」
「…ぇ…?」
「ふうん…それは、楽しみだ」
心がざわめく様な笑みを見せて、また近づいて来る。
その時になって、やっと今起こった事がハッキリと理解出来、
これから起こるであろう事を、改めて認識させた。
それは同時に、
先程よりさらに強い『恐怖』を心に駆りたてさせた。
「!!…止めっ…ル・ブレッド!」
無駄だと解かっていてもなお、抵抗する事を止められなかった。
「嫌だ!…嫌っ」
何もかもが遅かったのだ、
この部屋に入った時から、
必死の抵抗は軽くかわされ、
強い力で押さえ付けられた壁と身体の間で、身体の自由は奪われ、
無理矢理顔を上に向けさせられる。
「…離…せ…い、やぁっっ…」
そして、まるで噛み付くかの様に、先程より強く押し当てられる唇。
必死に歯噛みして、奥への進入を拒む。
「んっ…んん…んぅッ!」
ふいに、
はだけられていたシャツの間から手が差し入れられ、
それはスグに胸の突起に辿り着くと、指先で強く押し潰し刺激を与える。
「あっ!」
咄嗟の事で、堅く引き結んでいた口から、
堪える事の出来なかった声が洩れる。
その隙をついて、口内に差し入れられた舌。
瞬間、歯を閉じようとするのを、胸への刺激を強くする事で逸らし、
逃げる舌を追って、強引に絡ませ、きつく吸い、
息もつけない程激しい愛撫を加えられる。
必死にそれから逃れようと、顔を逸らそうとするが、
ガッチリと固定された顎を外すことは出来ず、思うままに陵辱されて行く。
ただひとつの、キスの経験すら無かった相手を陥落させるのは容易な事で…
「ん、くぅ…ん…はっ…ゃ…んうっ」
ピチャリと濡れた音がする程、隅々まで激しく口内を犯され、
飲み込みきれなかった、自分と相手の唾液が口の端から顎に伝って下に落ちて行く。
激しく混乱する思考と、息苦しさで目尻に滲む涙。
長く深いキスの後、ようやく離された唇。
「っふあ…はっ…は…」
足りなくなった酸素を求めるかのように、
大きく肩で息をして、呼吸を整えようしている身体を、
自由を奪ったまま、きつく抱き締め、
再び唇へ、
そして頬、顎、首筋とついばむ様なキスを降らせていく。
「―…ふ、ぅ」
「フフ…何だか嬉しいね、僕が君に1から教えられるなんてね」
「…ん、ぅ…やめ」
「大丈夫、スグに気持ち良くなれるさ。
“恐さ”も“罪悪感”もすぐにどうでもよくなるくらいにね…」
耳元で囁かれながら
「僕がそうして上げるよ…鳴滝くん」
身体に纏ったシャツの間に入れられていた手と指が、
さっきよりもハッキリとした意図の元に、
身体の上を滑り始めたのを感じた。
それをどうする事も出来ず、これから起こる事を思うと、
身体が震えるのを止める事すら出来なかった。
力は、少しづつ足元から奪われていき…
涙が一粒落ちていった…
―――――――――――――――――――――――――――――――
「ぅ…ふぅ、や、嫌……ぁ、あっ…」
そこには…
ル・ブレッドの腕の中で、
身体の力が抜け、床の上にへたり込んでしまった鳴滝がいた。
外されているサスペンダー、
はだけられ、辛うじて腕に残るのみとなったシャツ、
下げられたズボンのチャック、
それらの為に、普段のイメージから酷く掛け離れて見え、
堪らなく淫靡な存在の様に映る。
まだ、示され続ける拒絶と抵抗を気にする様子も無く。
そのまま壁に押し付ける様に押さえ付けながら、
その年齢の割には随分と幼く、華奢な身体を好きな様に弄んでいた。
両腕を片手で頭上に押さえ付け、
もう片方の手は、胸や腹部、腰を探る様に巡り、
その後を追う様に、唇と舌が身体の上を這っている。
「フフ…初めてなのに君の身体は随分と感じやすいんだね、
ちょっと触っただけなのに、こんなに胸を堅く尖らせて…まるで女の子みたいだ」
「い、や…ち・…が…ッ」
「どう違うんだい?ほら」
そう云って、胸の淡い色をした小さな突起を強く摘まむと、指の腹で擦る様に刺激する。
「あっ!…やっ…やぁ!!」
途端に身体がビクリと跳ね上がり、大きく震えた。
「くっくっ…ほらね、ココだけでこんなに感じるなんて、
こんな君を、他の人間にはとても見せられないね」
覗き込むかの様に送られる視線。
その視線から逃れるか様に顔を背け、深くうな垂れる。
「―――…っ…ぅ…も、ゃ…め」
恥ずかしさと、
この状況をどうする事も出来ない歯痒さ。
今まで体験した事の無い身体の変化と、自分の感覚。
それら全てが心を絞め付け、傷め付ける…。
「まさか、まだ始めたばかりじゃないか。
これから、何もかも忘れるくらい、夢中にさせて上げるよ…」
そう耳元で囁いたかと思うと、押さえ付けていた力を緩め、
束縛していた両手に自由を返す…が、
それは一瞬の事で、
次の瞬間、その身体を抱え上げると壁際から離れ、
一番奥の部屋へと進んで行く。
急な状況の変化に一瞬呆気に取られたが、
すぐに状態を把握すると、その抱えられた腕の中から逃れようともがくが、
思う様に身体に力が入らない上に、しっかりと抱えられている為、
上手く行かない。
「スグに着くから、大人しくしておいてくれないかな」
「そん…なの知らな、っ…離せル・ブレッド」
抵抗など意に介さず、連れて行かれた部屋。
ガチャ…
抱えた身体を下ろす事無く、そのまま部屋のドアを開ける。
ドアの開く音で部屋の中に目を移した鳴滝の心臓が、ドキリと大きく鳴った。
目に写ったモノは、
広い室内と、そのほぼ真ん中に位置された、
部屋の広さに見合う、大きめのダブルベッド。
「僕としては、
別にあのままあそこで続けても良かったんだけれど、
でもそれだと、初めての君には少し辛いかと思ってね」
笑いながら放たれる言葉。
「ッ…ゃ、嫌!嫌だ!!」
少しづつベッドが近づいてくるのが見える。
近づくにつれ大きくなる恐怖心はもはや拭い様が無く。
徐々に絶望感で占められていく。
力の抜けきった身体で、必死に逃れようと足掻く。
しかし、きっと、
その腕の中からどうにか逃げ出せたとしても、
恐らく部屋からは、簡単には出れない様にしてあるに違いない。
それでも、出来うる限りの抵抗を試みる。
「止め・・っ…ル・ブレッド離せ!」
それが、どんなに無駄であっても…。
「あっ!…ッ」
解放されたのは柔らかなベッドの上。
少し放り出される様な形になり、
バランスを崩し、スグには体制を立て直せなかった。
その隙をついてル・ブレッドも素早くベッドに上がり、すぐ側にまでやって来る。
気付いて逃げようとする腕を後ろから掴み、無理矢理自分の方に引き寄せる。
「い…やだっ…止めろ…っあ!止めっ…嫌ぁ!!」
暴れる身体をうつ伏せに押さえ付け、
落ちずに肩袖に残っていたシャツを使って、両腕を後ろ手に縛り上げる。
「別にこういう趣味は無んだけれど、
君がちっとも言う事を聞いてくれないからねぇ…
大人しくしていれば、それ程酷い事にはならないと云っただろう。
折角優しくして上げようかと思っていたけれど…仕方ないね」
覆い被さる様にして、顔を近付けて耳元で囁く様に云いながら、
残った衣服を脱がしにかかる。
「嫌だ!…ル・ブレッド!!」
背中を押さえ付け、ズボンに手を掛け、下着ごと脱がされていく。
無論、その間も抵抗は続けられていたが、
うつ伏せの上、両腕が使えない事もあって、
殆ど効果は無く、一糸纏わぬ姿にされていく。
外気に晒された身体が、小刻みに震える。
「……ッ」
うつ伏せだった身体を、仰向けに向き直されても、
羞恥に身を震わせ、涙を滲ませた瞳を堅く閉じ、
顔を背けて、決してル・ブレッドを見ようとしない。
そんな鳴滝の肌に指が触れると、
ピクリと、小さく素直な反応が返ってくる。
「前から思っていたけれど、君は本当に華奢だね。
それに…年齢のわりには随分と小さくて、幼いくらいだ。
これでよく、あれだけの活躍が出来るものだね、感心するよ」
云いながら、身体の上を這う手の動きは止まらず、
少しづつ、感じやすい場所を探し当てていく。
「…っんっ…っぅ…」
指が敏感な所を滑る度に、強く噛み締めた唇の間から、
堪え切れなかった吐息が洩れる。
「見た目はこんなに幼いのに、身体はすごくイヤラシイね、
ほら…またこんなに反応してる」
また胸の突起に触れ、
今度は口に含み、舌で転がし、強く吸う。
そして空いている方を、ギュッと指で摘まむと擦り上げた。
「!…っゃ…あっ、あっ…やぁ!!」
大きく震え、跳ね上がる身体。
堪らず上がる声。
「君は…ここをこうされるのが好きみたいだね、そんなに気持ちイイかい?
いいよ、好きなだけ感じさせて上げるよ」
「――っっ…っあ……や、だぁッ!」
嫌がり跳ねる身体を押さえ付け、執拗な愛撫を胸へと施す。
今まで知らなかった感覚への強い戸惑いと、
敏感に反応し過ぎる身体、
弱い所へ連続的に与えられ続ける刺激。
タガを外させ、落とすには一番早いやり方…
―――――――――――――――――――――――――――――――
「…っ…ひ、っく…も…や、だ…ぁ…んっ」
あれから、
他の場所に触れながらも、胸への愛撫は止む事がなく
どんなに嫌がっても、絶え間無く嬲られ続けていた。
まるで感覚は麻痺してしまったかの様で、
それでいて、身体は否応無しに反応し続けていて、
「ル、ブ…レ…ドぉ…も、許しっ…や、っぁ…」
この無垢な存在は、
今、自分がどんな表情をしているのか解かっているのだろうか?
恐らく…
意識はあっても、思考はほぼ止まりかけているのだろう。
潤んで焦点の定まらない瞳が、
流される意識されていない涙が、
哀願する声と顔が、
どれだけ男の雄の部分を刺激しているのか…
ゾクゾクとした嗜虐心が沸いてくる。
もっと、もっと、
君を泣かせたい…
何も解からなくなる程乱れさせて、
助けを求める相手が僕だけだと認識させて、
縋り付かせて、
そして…
「……いいよ…
君が大人しくしてくれるんだったら、ね」
そう云う間も、弄ぶ手は止めないままで、
すでにその感覚は、快楽を通り越して苦痛ですらあるに違いない。
その波に必死に堪えながら、小さく頷く。
「っく…おね…が…や……も…ゃだ…」
「始めから、
そんな風に素直になってくれていたら、
僕だってもう少し優しくしてあげるのに鳴滝くん」
愛撫の手を止め、
顔を上げ、
流れる涙を舌できれいに掬い取ってやり、
そのまま唇を合わす。
唇を離れ、顎、首筋とゆっくりと降りて行くと、
否応無しに馴らされてきた身体からは、
微かな、それでいて先程より確かな反応が返ってくる。
「ぅ…ん…ふ、うん……んん…」
噛み締めた唇は変わらないが、その唇から洩れ聞こえる音は、
明らかに色を帯びて…
「気持ちイイのかい?」
その問いに答える事は無く、どちらとも取れる様な仕草で、小さく首を振る。
「くす…」
唇で鎖骨に触れ、
「ぁっ…つっ」
そのまま強く吸い、その白い肌に、綺麗な朱の印を付ける。
あたかも、所有の徴ででもあるかの様に…
―――――――――――――――――――――――――――――――
束縛から解放された腕は、
まるで縋る様にル・ブレッドに回されていた。
その幼く、細い身体に初めて与えられている、
強く弱い…そして強烈な刺激の波に堪えるかのように、
必死にその指先に力を込めて、震えながら縋りついていた。
今手を離すと…
もう2度と戻れないとでも云うかの様に、
そして、
それを恐れているかの様に…
「ふう…ん…ル…ブ、レッ……ドぉ…」
「…ココが…いいのかい?」
「あっ、やぁ!…」
ゆっくりと、軽く触れるだけの指先を、肌の上で滑らせると、
より一層震えを強めていく身体。
それでも…その瞳は、
その行為に完全に溺れていない事を、ハッキリと示していた。
涙と身体の熱で潤んだ瞳には、
危うい陰ろいと、
その中に霞むように、それでいて確かな意志の光…。
意識している訳ではない無意識なギャップ。
それは、
ル・ブレッドの深く暗い心の奥底にある何かを強く刺激する。
その刺激が促がしてくる感情を押さえる事無く、
行動に現して行く。
「ル・ブ…あっ!…やっ、ああぁっ」
今まで、ゆっくりと逸らす様な愛撫しか与えていなかった身体に、
もっとハッキリとした、強い、確かな愛撫を加えていく。
今まで、その緩やかな愛撫について行くのがやっとだった身体は、
急にきつくなった性急なまでの行為、
先程までとは比べ物にならない強い刺激、
それらの全ての感覚に追い付かず、大きく身悶え、
ビクリと跳ね上がる。
「やっ…だ・!…レッド!」
与えられる感覚を処理する事が出来ず、
縋らせていた指を外し、その腕の中から逃れ様と一瞬もがくが、
スグにまた押さえ込まれ、
それはただ、イタズラに相手を刺激する結果に終わる。
「…は…ぅあっあ…や!あ…やっだぁ!!」
指と舌。
それらを使って、先程からの愛撫で探り出していた場所を、
丹念に、執拗に刺激していき、急激に追い上げていく。
その行為に成す術も無く、
容赦なく身体が追い詰められて行く。
その…自分ではどうする事も出来ない感覚に、
心も感情も、増してや身体も、ついて行くことが出来ず、
ただ身体を震わせ、止める事の出来ない声を上げるしかなかった。
少しづつ愛撫の手を下に下ろして行くと、
煽られて、熱くなっていく身体は、
その熱に浮かされて、明確な反応を見せていた。
「あ、くっ…ふぁ……あんっ」
足の付け根を、内側の裏から前に向けて指でなぞると、
その反応はさらに大きくなった。
「感じているんだね、鳴滝くん…
君の、もうこんなになっているよ」
ためらう事なく指を伸ばし、
熱が集中し、存在を主張するソコに触れる。
「ッ…あっ!!」
その途端、
一層大きく跳ね上がった身体を軽く押さえ付けながら、
そのままソコを掌で包み込むと、
ゆっくりと扱きにかかる。
「やっ…な、に…嫌!…あ…ああぁっ!」
「他人に触られるのは初めてかい?」
「あっ、こん…な……し、らな…!」
「フフ…可愛いね、
もっと気持ち良くなっていいんだよ」
「やだ…やあぁ……」
くちゅくちゅと濡れた音を立てさせながら、強く、弱く、
そして容赦なく追い立てる。
「…やっ、ダメ…ダ、も…っ」
ビクビクと震える身体から、限界が近いのを感じ取り、
より一層強く先頭を刺激したその時、
「ッ…!!……ぁ…」
その感覚から、必死に逃げ様とした事も空しく、
一瞬、身体を大きく震わせたかと思うと、
ソコは、思いの他簡単に、白濁した液体と共に、身体の熱を外部に吐き出した。
初めて他人の手によっての性の解放。
いや、もしかすると、自分自身によっての経験すら無かったかもしれない、
幼い身体、幼い…精神と心。
この存在に、もっと教え込んだらどうなるだろう。
追い上げて、追い上げて、
いっそ、その心が壊れる程追い詰めたら…
それでも君は変わらないのだろうか。
それとも…
激しい羞恥心と、経験した事の無かった身体の感覚によって、
半ば放心状態に陥っているのに構わず、
圧し掛かる身体を下にずらしていき、
今、解放されたばかりのソコに再度触れる。
「!?…っあ!…や…な!?」
先程とは余りにも違う感触。
今度は手などではなく、
そのまま口内に含み、唇と舌を使って更なる反応を促がす。
「!……止めッ、や…嫌―――っ!」
その施された行為に対する驚き。
立て続けに与えられ、処理しきれない感覚。
先程のものとは比べものにもならない、
むしろ、苦痛すら伴なわせるかの様な激しい快楽。
何もかもが真っ白になっていくような錯覚。
「嫌だ!…やっ…離し……ッ」
それらから逃れようと、
足の間に埋められたル・ブレッドの頭に手を伸ばし、
引き剥がそうと試みるが、
力の抜け切った身体ではそれも適わず、
その手はただ、相手の頭に添えられるだけになる。
後はただ、
頭の奥がジリジリと焦げ付いていくかの様な、
容赦無く追い上げられていく感覚に耐えるしかなかった。
「……っ…ぅ、く…ゃ…も、やめ…」
耐え切れずに、ポロポロと落とされる涙。
啜り泣き、嗚咽の漏らされる口。
ガクガクと震える身体。
それら全ての情景が、
ル・ブレッドの心の中の、最も暗い部分に響く。
自分がどんどん残酷になって行くのを感じ、
その心地良い変化に身を委ね、従って行きながら、
自分をも煽っていく。
もっともっと…
僕にだけ君を曝け出させたい。
君自身知らなかった顔を僕だけに。
いっそ壊してしまえばいいのかもしれない。
自分すら見失う程に。
ただ…僕だけを見続けるように。
そうすれば…
「っ……は…はぁ……は…ぁ」
無理矢理解放させられた身体は、激しく震え、酸素を要求する。
まるで、自分の身体では無くなったかのようで、
指先ひとつですら、
動かせないのではないかと錯覚しそうな程の覚束なさと、熱さ。
ドキドキと鼓動する音が、やけに大きく耳に響き、
相手にまで聞こえるのじゃないかと思う程だった。
「フフ…気持ち良かったかい?鳴滝くん」
「……っ」
顎を持ち上げ、目線を合わせ、
嘲るような色を含ませた声と瞳で問いかける。
「悪かった筈はないよね…あんなに出したんだから」
その問いに答えず、
羞恥と快楽で流された涙の浮かぶ瞳は、
きつい光を発しながら、それでもその視線は、相手の顔から逸らされていた。
それが今の鳴滝に出来る、唯一、精一杯の拒絶。
「おや、返事はナシかい?まぁそれでもいいさ…でも、
君だけ気持ち良いのはずるいよねぇ…」
そう云いながら、
濡れた指先が、少しづつ足の線を下になぞっていく。
「…?…ル・ブレ…」
「そう…思うだろう?だから、今度は僕の番だ」
眼の端で見える微かな視界ですら、
そうだと解かる程、酷く酷薄で綺麗な笑みを浮かべながら、
そう…告げられた。
―――――――――――――――――――――――――――――――
「っ―――!!」
音にならない絶叫。
悲鳴にすらならない上げられた声。
まだまだ堅く、
異物の進入を頑なに拒むそこに、熱く堅くなった自分自身をあてがい、
無理矢理抉じ開け、埋め込み、進入して行く。
微かに血の匂いがするのは恐らく、
よく馴らされてもいなかったそこが、限界を超え裂けた為だろう。
「―――……っ、ひ…い、たぃ…」
「まだ…先が少し入っただけだよ鳴滝くん」
ゆっくりと優しく囁きながら、その行為に優しさは無く、
わざと傷付く方法で犯していく。
自らの行為に煽られ、
ル・ブレッド自身も、更に熱を帯びてくる。
「…ゃ…も、い…やぁ」
意識しないまま、必死に身体を逃がそうとするのを、
その腰に腕を回し、有無を言わさず引き戻し、
そのままガッチリと押さえ込むと、入れていた部分を少し引く。
無意識に力んで、身体を強ばらせる事で進入を拒んでいた身体が、
抜かれる事に刺激され、一瞬、その力むバランスを崩したのを見計らって、
今度は強烈に、その細い身体の中に、昂ぶった自身を容赦無く突き入れる。
「!!!―――いやああぁぁぁ…!!」
ヒュッ と息をのむ微かな音。
その後に続く、今度は音を伴なう、喉が張り裂けんばかりの絶叫。
1番最初の大きな抵抗さえ過ぎれば、
後はその勢いのまま、昂ぶりはドンドンと奥へと押し進められる。
一気に半分以上埋められ、それによって生じた衝撃は凄まじく、
鳴滝の微かに残っていた思考能力を奪うには充分すぎる程だった。
身体が異物を押し出そうとするのを無視し、力ずくで残りを埋めて行く。
ギシギシと、身体中から軋る音が聞こえてきそうな程の激しい痛み。
「ひっ…ぎ、い…たいぃ、嫌…嫌ぁ……抜、て…抜いてぇ!!」
そこを限界以上に広げ、引き裂き、圧倒的な存在感と圧迫感を伴なわせても尚、
身体の奥のもっと深い所を目指すかのように、その熱い塊は先に突き進んで行く。
腕を突っ張り、ル・ブレッドの胸を押して
自分から引き離そうとするが、もちろんそんな事は何の抵抗にもなっておらず、
より一層強く引き寄せられると、その身体の中に、根元まで完全に埋め込まれる。
「っ…ひっく…や…痛いぃ…もぅ…や、だぁ…っ」
普段決して発せられる事のない様な言葉。
幼い子供の様に泣きじゃくる顔。
「スゴイね…ほら、
君の中に僕が全部入っているよ…解かるだろう?
こんなに、絞め付けているんだからね」
「ひっ!!…くうん!…っ」
少し身体を動かされただけで、苦しそうに上がる悲鳴。
「苦しいかい?鳴滝くん」
そう問われ、
言葉を紡ぐ事すらままなら無い程、追い詰められた頭で小さく頷き、
必至に縋り付きながら、自分の苦痛を訴える。
何時もなら決して取らない様な反応。
痛みだけならば、もっと酷い傷を負った事もあるだろう。
だが、これはそれらのモノとはまるで異なった異質な苦痛。
そして、身体の痛みよりも更に辛いのは、
身体と共に陵辱され引き裂かれて行く、心の苦痛…。
「そう…でも止めて上げるワケにはいかないよ、
まだ、始めたばかりだからね」
云いながら、ゆるゆると身体を動かし始める。
「ひゃっ!!…やあっ…動かな…でぇ…!」
「フフ…君の中は凄く気持ちいいよ鳴滝くん。
狭くて、絞め付けて、
こんなに痛い程に咥え込んで……いやらしいね」
始めは小さく小刻みに、
次第にそこが、裂かれて滲み出る血と、
お互いの体液との為に、少しづつ滑りがよくなってくると、
それに伴なって、段々と動きが大きくなっていく。
「…あ!…ひっい……やっ」
「んっ…ダメだよ、鳴滝くん。
そんなに絞め付けちゃ、もっと、力を抜いて」
ビッチリと隙間無く収められたソレが動かされる度に、
鳴滝の内部を容赦無く擦り上げて刺激する。
まるで身体の中を掻き回し、全てを引き出される様な感覚と、
全てを圧し込まれるような感覚に、
嘔吐しそうな感じすら覚えさせる。
「あ…ぐっ……や…やっあ…ぁ……ひっ!?」
容赦なく出し入れされるソレの容積が増し、
一層圧迫されたかと思うと、身体の奥で熱いモノが弾けて注がれる。
「あっ…ああぁ……」
「ほら、君があんまり絞め付けるから…
そんなに急いで欲しがらなくても、時間はまだあるのに。
でもこれで、動きやすくなたかな…」
「……ひぐっ!!あ、ああぁ……」
ル・ブレッドの言葉が終わるより先に、
潤滑油の代わりになる存在を得た行為は、一層強く激しいものとなった。
先までギリギリに引き抜き、そのまま一気に根元まで突き入れられる。
優しさなど微塵もなく…
その、更に激しくなった苦痛と息苦しさ、
何も解からなくなってしまいそうな恐怖心から、
どれだけの悲鳴と哀願がその口から発せられても、
陵辱する行為は止められる事は無く、
部屋の中には、ただ濡れた音が響いていった…。
―――――――――――――――――――――――――――――――
「…ひっ…も…ゃ……うあっ!」
長時間上げ続けた悲鳴と喘ぎの為に、すでに掠れてさえいる、
苦しげに響く声。
「…ッ…っは…あっ、あっ…ッ」
堅く閉じた瞳から、止めど無く流される涙。
「苦し……ひっ、ぁ…レッ…ド、ぉ…」
必死に縋り付いてくる手。
「…はっ…も…止め…あっ…ああぁ!」
足の間を濡らしているのは、
どちらのモノともつかない激情の流れ。
「もう…ダメかい?」
一層大きくなってきている震えから、
もう身体も心も、限界なのだろう。
解かっていて、
敢えて無視し、更に追い詰めていく。
動きを止めないまま、
むしろ、責め苛む行為を更に強くして行きながら、
ゆっくりと、
自らも熱くなった吐息のまま耳元で問う。
その言葉を理解しているのかいないのか、
身体をブルリと震わせると、
否定とも、肯定ともつかないまま首を小さく振り、強く縋り付いて来る。
「フフ…可愛いね。
でもダメだよ、ちゃんとその口で、僕にどうして欲しいのか
言ってくれないとね、それとも…まだ大丈夫なのかな?」
「!!――ひ、ぃっ!…嫌!…やっ…だぁあ…」
限界まで足を大きく押し広げられ、
また強くなった突き上げに、苦痛の悲鳴を上げる。
「…め…も、っ…ダ…メぇ…ル・ブ…レ……」
「何?」
「お、ねが……お願…ぃ…も…」
「“イカせて下さい”だよ…鳴滝くん」
屈辱的な条件に、拒む様に頭を振る。
「…っく…う…ぅう……ひっく」
「ほら、ちゃんと言わないと。
何時までもこのままだよ…イイのかい?」
クスクスと笑いながら囁く。
その胸元へ一層縋り付きながら、微かに、
「ぅ、っふ……せ…て………ぃ、か…せ……てぇ」
うわ言の様に呟かれた言葉。
正気ならば、絶対にその口にのぼる事が無い様なセリフ。
何よりももう、
神経が既に限界を越えていたのだ。
身体の感覚に全ての意識が集中しているのが解かる。
激しい苦痛と快楽、
ただそれだけが全てを支配していた…心も身体も。
今なら、
君を手に入れる事が出来るかもしれない。
『僕』が居るこの『場所』に、
2度と戻れない『暗闇』に、
君を落とし入れる事が出来るかもしれない。
僕だけの世界だった『ココ』に…
「いいよ、イカせて上げる、
君が…これからも僕と今みたいな時間を持ってくれるならね…」
少し動きを緩めながら囁く。
「そうしたら、今日はもうこれで終わりにして上げてもいいよ…」
ゆっくりと突き上げ、考える事もままならない程に追い詰めていきながら。
「どうする?鳴滝くん…君が…決めるといい」
きっと僕は今、酷く残酷な目をしているに違いない。
まともな判断など出来ないと解かっている。
今の君に、
それが問い掛けなのか、駆け引きなのか、
それとも脅迫なのかすら判断出来ていないだろう。
言葉の意味さえ理解出来ないまま、
君はきっと…
僕の元に落ちてくる。
「あっ、あっ…ル・ブレッ……ひっああぁぁぁ!!!」
今まで以上に、深く、強く突き上げられ、
身体の1番奥に、熱いモノを注ぎ込まれた瞬間、
大きく仰け反り、激しく身体を痙攣させながら、
一際大きく、悲痛な嬌声を上げ、
長く与えられ続けた苦痛と、快楽から解放されていった…
そして、
「“約束”だよ、君はもう…
“ココ ”まで落ちて来てしまったんだから…」
薄れてゆく意識に、微かに届いた言葉。
それは、
全てを言葉として理解する前に…消えていった。
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まるで死んだ様に、
何の反応も返さない程深く、意識を沈めてしまったまま横たわる身体。
一定の間隔で小さく、微かに繰り返される呼吸だけが、
この身体が活動している事を知らしめている。
血の気を失って青白くなった顔。
苦しげに寄せられたままの眉。
名残の様に目尻に溜められた涙、頬に残る幾筋もの涙の跡。
その幼い身体の至る所に残る、自ら付けた痛々しいまでの『痕』
そして…
身体の中に収まり切れずに溢れ、足の間を汚している自分の激情と、
この身体が、これまで汚されていなかったという証の様な赤い流れ。
それらを無言で見詰めながら、
先程の行為の嗜虐さが嘘の様に、そっと抱き寄せる。
抱き寄せられても、一向に気付く気配すら見せない。
「いっそ…壊れてしまえばいいのに…」
生気の無い頬を、自分の胸元に抱き込んで、
誰に云うとも無く呟かれた言葉。
「僕はもう、君を手放す気なんて無いんだよ。
君がどんなに否定して、拒絶しても、どんな感情をぶつけてきても、
この腕の中から離す気なんて無いのさ…」
微かに、腕の中の身体が、意識が戻らないまま身じろぐ。
それを感じながら、綺麗で残酷な色をのせたままの瞳で微笑む。
どこか、苦しそうなモノを滲ませたまま…
「例え…それで君が君でなくなってしまっても…」
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これは『約束』と『契約』
僕が君に与える、
約束という名の『罠』と『束縛』
契約という名の『徴』と『鎖』
…そして
君の為だけに用意された
『暗闇』
僕だけの…『 君 』
暗闇
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